死後の世界 (8)呼び覚ましてはいけない記憶

呼び覚ましてはいけないもの

 

三郎さんは新しい町に移動した矢先、「顔が悪い」ということで逮捕され、釜茹でにすると言われ驚愕します。死後の世界で使用する幽体という霊的な身体は死ぬことがありませんので、あちらの世界の最高刑は死刑ではありません。
釜茹でにすれば、釜を出現させて三郎さんをその中に放り込んで茹で続けることができます。釜を出した人の念が三郎さんよりも強ければ、三郎さんは釜を消すことができませんので、半永久的に茹でられる苦痛を味わうことになります。
死後の世界の仕組みがある程度分かってきた三郎さんが半狂乱になる理由がここにあります。
この状況を何とかしたい三郎さんは、交番に訪ねて来た女性に自分が逮捕された理由を教えて欲しいと懇願します。
なお、 死後の世界 の見解については水波霊魂学に基づいており、水波先生の著書「死後の世界で恋をして–愛って?」で主人公が経験したことを参考にしています。

 

死後の世界では、「生きがい」が見つけることが難しい

「貴方はどうして、そんなに悪い顔になったのですか?」
「えっ?」
三郎が驚くと、女性は続けた。
「貴方も霊魂なら、顔なんて幾らでも変えられるはずです。そうであるならば、物質の世界の感覚を持ち込んではいけない事くらいは分かるはずです。顔を変えない事が問題なんです。その悪意が許せないんです。貴方のように、物質の世界でアイドルになれるような顔をして、堂々と外を歩いているという事は、周囲に与える影響を何一つ考えていないという証拠なんです。物質の世界の感覚や常識をこちらまで持ってきている、という事になるのです。

水波一郎著 「死後の世界で恋をしてーー愛って?」 P.52-53 (下線は引用者)

 

女性は、死後の世界(あの世)に物質の世界(この世)の感覚や常識を持ち込んではいけないと言いました。
なぜだか分かりますか?

もし分からないのでしたら、あなたも三郎さんのような目に遭う可能性があります。

 

三郎さんのいる場所は死後の世界(幽質の世界)ですが、上か下かと言われれば下の世界です。これまで見てきましたように、下の世界に入ったとしても思ったことは何でも実現しますし、町があってそこの住人が全員悪人というわけでもありません。下の世界だからといって鬼が住んでいるのではありません。そこにいるのは人間であり犬や猫といった動物たちです。見た目はこの世の風景とあまり変わりません。

しかし、この世と変わらないと言いましても、やはり決定的に違うことがあります。
それは、やることがなくて生きがいが見つけられないということです。

 

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「何もしなくていい世界」で味わう苦悩

下の世界に入るということは不幸なことです。
まず、ケンカが始まれば念の飛ばし合いになり、死ぬことがないので延々と苦痛を味わうことになります。自分の住む場所に他人を痛めつけて楽しむような人がいますと、いつもビクビクしていなければなりません。一人では不安ですので仲間を作って自分を守ろうとしても、相手も集団を作って対抗するかもしれません。いくつも集団ができますと、些細なことで争いが絶えない場所になってしまいます。そうなってからやっぱり自分は平和に暮らしたいと孤立したのでは、かえって集団から標的にされるかもしれません。

そして、生きがいがありません。何でも実現する世界ということは、誰でも美男美女になれますし、豪邸に住むことも綺麗な服を着ることもできます。この世であれば、家を建てたりクルマを買ったり高価な服を着ることができるのは、仕事を頑張ってお金を貯めたからです。

努力をしなければ何も手に入らない世界にいた頃は、手に入ったことで達成感を得たり、手に入らないことで悔しい思いをしたりしていましたが、この世界にやってきて何でも手に入ってしまうということに慣れてしまいますと、やることがなくて退屈になっていきます。

「自分はいったいこの先何を生きがいにしていけばいいのだろう?」

そう感じてしまった時、その先にあるのは絶望しかありません。

幽体にも意識がありますので、絶望すれば心がどんどん蝕まれていきます。何もやることがないということは、気分転換もできないということです。

食べなくてもいい、寝なくてもいい、仕事をしなくてもいい・・・。
言い換えれば、何もしなくてもいい世界です。そうなった時、起こることはただ一つです。

それは自分の心理に支配されるということです。
絶望している心理にずっと支配されて生きていくことになります。

下の世界に行くことで味わう本当の辛さとは、自分の心理に支配されてしまうことなのかもしれません。

 

呼び覚ましてはいけない記憶

絶望感を味わう人の中には、物質の世界を懐かしんで泣いている人がいます。
死ぬときは誰でもひとりぼっちです。この世に残してきた家族のことや、自分が努力して何かを達成した時のことを思い出して、何とか物質の世界に帰りたいと願います。
しかし、物質の世界に帰りたくて帰れることができませんし、肉体は消えてしまっているのですから、もうあの時のような経験は二度とできません。

 

物質の世界を思い出したら、最後。ここでは、いつまで経っても、その記憶から逃げ出せない人が出るの。貴方も分かると思うけど、一つの事に熱中すると、いつまで経っても辞められない人が大勢出るの。物質の世界の家族を思い出したら、何年も泣いている人がいるの。その人達は、いつまでも、いつまでも、苦しみが続いてしまうのよ。
だから、思い出させてはいけないの。これは皆の義務なの。そして、貴方のような行為は犯罪なの。分かった?」

同 P.56 (下線は引用者)

 

三郎さんが「顔が悪い」という理由で逮捕されたのは、この町の住人に物質の世界のことを思い出させてしまうからでした。彼らにとってそれは「呼び覚ましてはいけない記憶」だったのです。

 

三郎は知った。
(どんな分野であれ、物質の世界で一生を賭けて努力した達人の技術が、ここでは相手にすらして貰えない。達人と呼ばれていた人も、ここではただの人にすぎない。自分の人生は一体、何だったのか。)
まさしく、自己否定の連続だったのである。
何か人の役に立つ仕事をしたいと思っても、何をして良いのか分からない。それが、こっちの世界なのであった。

喜んでいたのも束の間。そのうち、自分の価値が見つけられず、心理を病んでいく人が大勢出る。それが霊魂の世界だったのである。

同 P.59 (下線は引用者)

 

心理の問題はこの世だけではなかったのでした。今の意識がそのまま死後の世界に行っても変わらないのであれば、それは当たり前のことだったのです。そして、今は心が強い人であっても他界後、あちらの世界で自分の価値が見つけられないのであれば、いずれ心理を病んでいきます。

あちらの世界で通用する価値とは何なのか、本当はそれをこの世にいるうちに見つけておかないといけないのでした。

三郎さんは死後の世界の現実を少しずつ学んでいきました。

 

 
【死後の世界についての記事一覧】

第1回 水波霊魂学での見解と死後の世界を知ることの意義
第2回 この世との連続性」と「捨て去るもの」
第3回 最初の関門を突破できるか
第4回 上の世界と下の世界とは何か
第5回 誰もが「夢の中の世界」を経験する
第6回 イメージ したことが実現する世界
第7回 ケンカをすると地獄になる場所
第8回 呼び覚ましてはいけない記憶
第9回 「生きがい」 が見い出せないという苦悩
第10回 霊的に成長 するのか、停滞するのか、それとも後退か
第11回 自分勝手な願い を叶えてくれる神などいない
第12回 相手との 不一致 が悲劇を招く
第13回 なぜ 下の世界 に落ちるのか
第14回 「 宗教の教え 」に隠された本質とは
第15回 思い込み がもたらす不幸
第16回 『 囚われ 』-肉体が消えたあとに残るもの
第17回 無信仰 の人達が集まる街