死後の世界 (11) 自分勝手な願い を叶えてくれる神などいない

自分勝手な願い

 

三郎さんは、この世と死後の世界では「大切な価値」の基準が異なるということを学んでいきました。この世では他人の物を盗んだり、人を殺すことは罪ですが、あちらの世界では自分が欲しいものは手に入れられますし、幽体という霊的身体は死ぬことがありません。したがって、この世の規範はあちらではまったく意味がなくなってしまうのでした。

なおここでの 死後の世界 の見解については水波霊魂学に基づいており、水波先生の著書「死後の世界で恋をして–愛って?」で主人公が経験したことを参考にしています。

 

人間のそばで活動する霊魂の目的(守護霊の代理)

三郎さんはこの世と死後の世界の違いを学んで、価値観が大きく異なることを知りつつあります。しかし、三郎さんはまだ大切なことに気が付いていませんでした。

それは「愛」とは何かということです。特に婚約者をこの世に残して逝かざるを得なかった三郎さんにとって、「男女の愛」に関する心情は、生前とほとんど変化していなかったのです。

この世に残してきた婚約者のことが気になって仕方がなかった彼は、親切な霊魂に頼み込んでこの世に戻ってきたのでした。そして、婚約者に良かれと思ってした行動で間違いを犯します。

親切な霊魂は三郎さんをこの世に連れてきたことを後悔していましたが、結局、半ば強引にあちらの世界に連れ戻すことにします。

 

「私は貴方の都合で側に居る訳ではないのです。もうすぐお別れです。」

水波一郎著 「死後の世界で恋をしてーー愛って?」 P.112

 

三郎さんの前に現れた親切な霊魂はこう切り出しました。もともと、この親切な霊魂は地上の世界を担当する霊魂です。人間には誰でも守護霊と呼ばれる霊魂がいますが、霊的な距離が遠くなりすぎて直接交流できなくなったために、その霊魂の依頼によって守護霊の代理として仕事をしているのでした。

 

「ですから、人間のわがままや望みを叶える為に居るのではありません。人間という霊的生命体が、正しく神霊の方向に向かうように、存在しているのです。それ以外の目的はないのです。」

同 P.112 (下線引用者)

 

守護霊やその代理の霊魂が人間と交流する理由は、人間の欲望を叶えるためではありません。合格祈願や宝くじを当てるために彼らが存在するのなら、全員志望校に合格できますし、一等に当選できることになります。そんなバカげたことが起こるわけがありませんし、現実は学校には募集人員とか宝くじには一等の当選本数といった「決められた枠」があって、その枠に入られる人とそうでない人がいます。それを決めているのはこの世の人間であって神や仏ではありません。そんなことに高貴な存在が介入するわけがありません。
つまり、祈りの対象が正しく神霊に向かっているものでない限り、彼らはそれを叶える対象としてみないのです。

 

「これから、貴方を連れ戻します。そして、私は二度と貴方の前に現れる事はないのです。」
「ちょっと待ってください。それはちょっと急過ぎませんか。いくら何でも、心の準備ができていません。」
霊魂は厳しかった。
「何度も言いますが、私の担当は物質の世界なのです。貴方は物質の世界を終了しました。そして、混乱期を脱しました。私は本来の活動に戻るしかないのです。

同 P.113 (下線は引用者)

 

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自分勝手な願い は神に届かない

三郎さんはこれまで何回もこの親切な霊魂と会ってきましたが、こんなに厳しい態度なのは今回が初めてでした。もう二度と会うことはないと宣告された三郎さんは意気消沈し、何やら見捨てられたような気分になっていました。

「神は人間のわがままを叶えるために存在しているのではない。」

「正しく神霊の方向に向いていない、或いは神霊を拒絶する人間には支援の手が差し伸べられることはない。」

「死後の混乱期を過ぎて自分で考えで生きられるくらい落ち着いたのならば、私の役目は終わり。」

三郎さんに投げかけられた言葉の数々は、これまで抱いていた神様のイメージを木っ端みじんに砕きました。神様は無限の愛をお持ちであり、人間がいくら間違っても裏切っても、最後は大きな愛で導いてくれる存在だと思っていました。三郎さんはその気持ちを親切な霊魂に問いました。

 

「しかし、それでは、神様は冷たすぎませんか?」
霊魂が切り返した。
「貴方は神様を信じて生きてきましたか?
霊魂になってからも、神様を前提にして行動していましたか?
違いますよね、それなのに、なぜ、神様が貴方の都合に合わせるのですか?
基本的に、貴方は神様を無視して生きています。神様だって無視するのは当たり前です。」

同 P.113-114

 

親切な霊魂はバッサリ切り捨てました。でも、三郎さんは納得がいきませんでした。こちらがちょっと間違っていたくらいで振り向きもしてくれない神様とはいったい何なのだろうか。やはり神様というのはそんな存在ではないはずだ。こちらが無視したからといって怒るような神様なんてニセモノだ。

 

「物質の世界では、そういうイメージなのでしょう。実際、至上の存在の事は分かりません。神霊と呼ばれる最高位の個性とも、私は会ったことがありません。ですから、実際にはどのような方なのかは、私も知りません。
ただ、これだけは言えます。至上の神がどのような方であっても、神霊がどのような方であっても、実際に担当するのは私達、未熟な霊魂だということです。私達は私達の尺度でしか動けません。自分を超えたレベルを求められても無理です。それは貴方だって同じはずです。貴方が出来ない事を私が要求しても、どうにもならないはずです。」

同 P.114 (下線は引用者)

 

 

物質の世界には「神」はいませんが、じつは三郎さんのいる死後の世界にも「神」はいません。水波霊魂学では、三郎さんのいる世界のことを「幽質の世界」と呼んでいますが、神霊と呼ばれる存在は「幽質の世界」とは異なる世界におられます。したがいまして、親切な霊魂もその姿を見たことがないのはもちろんのこと、守護霊といったクラスの霊魂ですらその存在を知らないのです。

地上の人間を担当するのは、守護霊やその代理の補助の霊魂であって、神ではありません。

守護霊は上位の霊魂から任命される存在ですので、守護霊を任命するという仕事をしている霊魂が存在しています。さらに上位にいる霊魂は日本という地域を担当したりアメリカという地域を担当したり、さらに上位の霊魂であれば地上の世界全体を担当するような霊魂もいるかもしれません。

上を見ればキリがないのですが、私たち人間を担当している霊魂は、神や仏ではないという事だけは確実なのです。彼らは正しく神霊に向いていない人間の自由意思を変化させることを許されていません。

人間の自由意思は尊重しなければならないということが「上の世界」の決まり事です。

三郎さんの世話をしてくれた親切な霊魂も、いろいろな経験を積んで霊的な成長を目指している霊魂であり、正しく神霊に向かっている霊魂でもあります。そうである以上、「上の世界」の決まり事に従って動くのは当然ですし、涙を流している人を見て心が痛んでも、その人が正しく神霊を求めない限り、何の手も打てないわけです。

 

それでも最後の最後まで諦めない・・・

この世に生きていれば苦労は絶えることなく次から次へとやってきます。

地上の世界という最前線で守護霊の代理として活動する霊魂たちは、担当する人間の苦悩を直接解決することはできないかもしれません。自分勝手でわがままな願いは言わずもがなですが、どう見てもこれはかわいそうだと思えるようなことであっても、物質の手足を持っているわけではありませんので、直接的に何かをすることは困難です。しかし、彼らは人間は死んだら終わりではなく死んだ後も死後の世界で半永久的に生きていかねければならないということを知っています。

地上時代の数十年は苦しみの連続だったかもしれないけれども、死後はその苦しみから解放されて霊的な成長を図ってほしい。そのためには、下の世界に落ちてはいけない。下の世界に落ちてしまったら、そこから這い上がってくるのは奇跡に近いくらい困難で、この世の何倍も大きな苦しみを味わうことになってしまう。

それが分かっているから、神霊や死後の世界を否定されても、最後の最後まで諦めずに担当する人間を観察しています。

「いつか目覚めてほしい」と淡い期待を抱きながら。

 

 
【死後の世界についての記事一覧】

第1回 水波霊魂学での見解と死後の世界を知ることの意義
第2回 この世との連続性」と「捨て去るもの」
第3回 最初の関門を突破できるか
第4回 上の世界と下の世界とは何か
第5回 誰もが「夢の中の世界」を経験する
第6回 イメージ したことが実現する世界
第7回 ケンカをすると地獄になる場所
第8回 呼び覚ましてはいけない記憶
第9回 「生きがい」 が見い出せないという苦悩
第10回 霊的に成長 するのか、停滞するのか、それとも後退か
第11回 自分勝手な願い を叶えてくれる神などいない
第12回 相手との 不一致 が悲劇を招く
第13回 なぜ 下の世界 に落ちるのか
第14回 「 宗教の教え 」に隠された本質とは
第15回 思い込み がもたらす不幸
第16回 『 囚われ 』-肉体が消えたあとに残るもの
第17回 無信仰 の人達が集まる街