死後の世界(3)最初の関門を突破できるか

人

 
前回は 死後の世界 についての特徴についていくつか書きました。今回はそれをさらに分かりやすいかたちで説明したいと思います。なお、 死後の世界 の見解については水波霊魂学に基づいています。そして、ここで書かれている 死後の世界 についてはあくまで原則的な内容です。実際は死後の世界のどの場所にいったかによって、その場所特有の特徴が存在します。

 

最初の関門 :今の状況を納得できるか?

 

まず、人が他界した当初の様子について水波先生の著書から該当する部分を紹介します。
以前にも紹介したことがありますが「指導霊」という著書があります。主人公の「正枝」さんは、明治時代が終わる頃に地方の農家に生まれました。彼女は十代のうちに農家に嫁に行き、農作業や子育てを黙々とこなした、この時代にどこにでもいるごく普通の女性でした。老いてからも子どものことなどの心配ごとはたくさんありましたが、とうとう他界する時がやってきたのでした。以下は正枝さんが他界した直後に関する記述です。

 

正枝は眠っていた。気が付いた時には、一人で座っていた。どうもベッドの上らしい。でも不思議である。たしか、自分はこんなに楽には座れなかったのである。
おかしい、何かがおかしい、そう思っている時、一人の女性が現れた。その女性が言った。
「あなたは死にました。これから死後の世界に行きます。」
「えっ!」
正枝は声が出なかった。ただ、驚くしかなかった。
女性が続けた。
「驚かれるのも無理はありません。皆さん、そうです。ですが、すぐに慣れます。まず、死んでいる事を確かめてください。ベッドから下りて、立って見てください。」
正枝は言われるままにするしかなかった。女性が悪い人には思えなかったからである。
おそるおそる、ベッドから下りてみた。すると不思議である。普通に立てるのであった。普通に立ったのは何年ぶりであろうか。正枝は確信した。
この女性に従えば良い。多分、実の両親の代理に違いない。
女性が言った。
「少し歩いてみましょう。」
正枝が歩くと、再び、女性が言った。
「それでは、走ってみますか?」
正枝は笑ってしまった。
(いくら何でも、走るだなんて。今まで寝てばかりだったのに、そんな事ができるはずがない。)
そうは思ったけれども、女性は確信に満ちた目をしている。正枝はとにかくやってみる事にした。
少しずつ足を速めてみた。すると、どうであろう。普通に走っていた。どう表現して良いのか、分からなかった。
第一、不思議なのは、最初は確かにベッドに座っていた。という事は、室内にいた。それなのに、そうであろう。今はなぜか、外にいる。それに、外だというのに家はなく、景色は田舎の風景で田圃と丘しかないのであった。
正枝は走るのを止めた。周囲の景色が気になったからである。その時である。目の前に女性が現れた。
「あらっ!」
正枝は思わず声を出してしまった。
走っていたのは自分である。女性は走る自分を見ているとばかり思っていた。ところが、なぜか、目の前にいる。驚いている正枝に対して、女性は笑顔であった。
女性は言った。
「分からない事が多いと思いますが、心配はいりません。私が教えます。ですから安心してください。」
正枝は頷くばかりであった。
水波一郎著「指導霊」 第一章 あの世へ p11,12

(下線は引用者)

 

正枝さんが他界した時、お迎えに来てくれた人は『見ず知らずの女性』でした。私が下線を引いている部分をご覧いただきますと分かります通り、主人公の正枝さんは女性の言うことに耳を傾けその指示に従っています。

死後の世界に入ってまず最初の関門となるのは、自分が死んだということを納得できるか?ということです。
死後の世界を信じている方であっても、自分が死んでしまった事実を受け入れるのは難しいです。また、迎えに来てくれた人(死後の世界の住人)が見ず知らずの人であった場合、その人の言うことを信用できるのかといったことも大切になります。

これは、一人一人の性格的問題によって左右されてしまいます。この世で形成された性格は死んだ後もそのまま継続しますので、仮に他人を信用できない人であれば、迎えに来た見ず知らずの人が言うことを信用できるわけがありません。
私ならどう反応するかな?と考えて見られるのも大切です。

 

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死後の世界のことは「先輩」に教えてもらう

じつは正枝さんはこの時点で、死後の世界で生活する場所には到着していません。肉体の死を迎えてから死後の世界に着くまでには少しばかり時間がかかります。詳しい説明は割愛しますが、肉体の死によって肉体の脳が使用していた意識はいわば宙に浮いたような状態になっています。これを死後の世界で使用する身体(幽体)の脳にあたる部分が使用できるようにするまでに多少の時間が必要なのです。

 

女性は親切で優しかった。
「少し休みましょう。」
そう言うか、言わないかのうちに、二人はまたベッドの側にいた。正枝は不思議であった。しかし、死後の世界なのであるから、不思議な事もあるに違いない。何と言っても、女性が親切であった。それが心の安定を支えていた。
「寝てみますか。」
女性が言うと、正枝は横になった。別に疲れてもいなかったのであるが、何年ぶりがで走ったのである。寝た方が良いに違いないと思ったのであった。
ものの一分もしたであろうか。なぜか急に眠くなっていた。そして、本当に眠ってしまった。

正枝が目を覚ました時、そこにはやはり、女性が立っていた。安心する正枝に、女性が言った。
「到着しました。これが、あなたがこれから住む世界です。」
正枝は周囲を見回した。自然が一杯であった。なぜか田圃はなく、あるのは林であった。
「家はないのですか?どこに住めば良いのですか?」
正枝の問いに女性が答えた。
「心配いりません。ここでは何でも作れるのです。思っただけで家も出て来ます。」
正枝は目が回りそうになった。しかし、何と言っても、女性は信頼できる。第一、ここまで連れて来てもらった。それに歩けるし、走れる。疑ってはいけない。もしかしたら仏様の化身なのかもしれない。仏様なら何でもできて当たり前、信じていれば大丈夫。正枝は女性の人格を確信していた。こうなると怖い物は何もなかった。言われたとおりにすれば良かったからである。

女性は次から次へと新しい事を教えてくれた。家は思っただけで作る事が出来た。どうやら、ここの世界では、心で強く念じると、何でも現れるのであった。
家を自分で作った。次には、服も作った。家の内装品も作った。そして、次は食事である。食事も念じると出て来た。いつも食べていた煮しめである。
女性が言った。
「なんでも出て来ます。ですが、本当は食事をしなくても生きられます。ここは死後の世界ですから。それに眠らなくても大丈夫ですし、ずっと昼のままです。」
正枝はさすがに驚いた。そして、質問した。
「食べなくても生きられるのでしたら、仕事はどうするんですか?何をして暮らしていくのですか?」
女性が答えた。
「何もしなくて構いません。何しろ、念じれば何でも出てきます。ですから、お金がなくても困らないんです。」
「はぁ・・・。」
正枝が狐につままれたようになっていると、女性が言った。
「何一つ、心配いりません。あなたのここでの仕事は、ここの生活に慣れる事なんです。それからどうするかは、あなた次第です。」
正枝は安心した。そして、尋ねた。
「では、私の実の両親は何時迎えにくるのですか?」
女性が答えた。
「それは、まだまだ先の話です。時期が来たら教えて上げます。何よりもまず、ここの生活に慣れてください。」
正枝は戸惑っていた。何しろ、両親が死ぬ際に迎えに来てくれると思っていたからである。
しかし、安心した。そのうち、女性が何とかしてくれそうだったからである。

正枝はとにかく、この世界の生活に慣れる、それが仕事だと知ったのである。

同 p.13~15 (下線は引用者)

 

前回の記事で書きましたように、死後の世界は欲しい物を念じれば現われます。正枝さんも女性からやり方を教えてもらって家を作ることができました。

ここで見落としてはいけないことは、正枝さんが死後の世界での生活をベストな形でスタートできたのは、死後の世界の「先輩」である女性が迎えに来てくれたことと、正枝さんが素直に言うことを聞いたからです。

人は誰でも死ぬことは怖いですし、死んだ後に別の世界があったということで意識が混乱しかねません。この時に、パニックのあまり迎えに来た人を拒絶してしまいますと、助けてくれる人がいなくなってしまう恐れがあります。現代に生きる私たちは「他人を信用するな」と教育されていますので、昔の人が普通にできたことができなくなっている可能性があります。
正枝さんは、女性のことを信用しようと努力しています。今の時代であれば「振り込め詐欺」に騙されてしまうかもしれません。しかし、ここ一番で他人を信用できるか否かは今の昔も変わらず重要なことなのです。

さらに、ここで注意することがあります。

この著書に出てくる主人公は、死後の世界のなかでも『上の世界』に行くことができたということです。これは現代人から見れば希少なパターンであり、「自分もこうなる」と安易に解釈してはいけません。

正枝さんが他界した時、迎えに来てくれた「先輩」は上の世界の住人でした。ですから、正枝さんは彼女の言うことを聞いていれば良かったわけです。

しかし、下の住人が迎えに来てしまうことも誰も迎えに来てくれないこともあります。この場合は、正枝さんのようにはいきません。下の住人が迎えに来れば下の世界に引っ張られて苦しい思いをすることになりますし、逆に誰も迎えに来てくれなければ一人ぼっちであちこち彷徨うことになり、心の安定が崩れてしまうかもしれません。

いずれにしましても、この世に生きているうちにできることはあるのですから、それを実践した人は死後に不幸となる確率が低くなるのは当たり前です。それでは「何を実践すればいいのか」ということになりますが、これも情報はたくさんあります。ただし、玉石混淆ですので自分の選んだ道が「玉」であるのか「石」であるのかによって、結果は変わります。

どの道を選ぶのかは個人の自由です。
死後の世界を信じる方がやるべきことの第一歩は、氾濫する情報の中から「本物」を見つけ出すことなのです。

 
<参照ページ>
死後の世界の入り口

外部のサイトにジャンプします。なお、スマートフォン対応ではありませんので若干読みにくいかもしれませんが、死後に不幸になってしまった人の例などが記載されていますので、ご参考になさってください。

 

 
【死後の世界についての記事一覧】

第1回 水波霊魂学での見解と死後の世界を知ることの意義
第2回 この世との連続性」と「捨て去るもの」
第3回 最初の関門を突破できるか
第4回 上の世界と下の世界とは何か
第5回 誰もが「夢の中の世界」を経験する
第6回 イメージ したことが実現する世界
第7回 ケンカをすると地獄になる場所
第8回 呼び覚ましてはいけない記憶
第9回 「生きがい」 が見い出せないという苦悩
第10回 霊的に成長 するのか、停滞するのか、それとも後退か
第11回 自分勝手な願い を叶えてくれる神などいない
第12回 相手との 不一致 が悲劇を招く
第13回 なぜ 下の世界 に落ちるのか
第14回 「 宗教の教え 」に隠された本質とは
第15回 思い込み がもたらす不幸
第16回 『 囚われ 』-肉体が消えたあとに残るもの
第17回 無信仰 の人達が集まる街