することモード と あることモード ~マインドフルネスの2つのモード

ハードワーク

 

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私たちは誰でも同じ仕事を長い期間続けていますと、習慣化します。

 

これは当たり前のことで、最初はやり方が分かりませんので、一つ一つの手順を丁寧に見て覚えようとします。仕事を覚えてしまえば手順に注意を払わなくても同じ成果を反復して達成できるのですから、悪いことではありません。

 

ただ、これが「一つの仕事」という単位であれば問題なくても、「一日」という単位になってしまいますと、毎日が決まりきったものに感じられるようになります。

 

「私は朝起きて会社に行って帰宅して寝るだけだ」というように。

 

 

「あることモード(being mode)」と「することモード(doing mode)」

 

マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based stress reduction:MBSR)、そこから発展した心理療法のマインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)では、マインドフルネスの状態(今この瞬間への注意と気づき、体験への関わり方の変化)に反応している心理的モードを「あることモード(being mode)」と言い、その反対に自動的(習慣的)に反応している心理的モード を「することモード(doing mode)」と言います。

 

「することモード」は、仕事や学業に代表される日常における目標達成を助け、問題解決において非常に合理的な方法を提供することができます。

 

これで終われば、「することモード」は何て素晴らしいんだ!となるのですが、残念ながらある事象が起こった時にも「することモード」のスイッチが入ってしまうことが分かっています。

 

それは、過去や未来に関してネガティブな事柄あるいは感情が湧いてきた際に、自分を助けるために起動してしまう「することモード」です。

 

 

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「することモード」が起こす困ったこと

 

何か望ましくない問題やネガティブな感情が起こった時、私たちの思考回路は「することモード」になっています。

 

この場合の「することモード」が何をするのかといいますと、「私の何が悪いのだろうか?」「この状況になった原因は何だろう?」と、今の望ましくない状況から抜け出すために原因を対策を解き明かそうとして考えることです。

 

そして、この場合に私たちが拠り所としているのが、常日頃の習慣化した反応や自己批判的な思考です。

 

望ましくない状況が起こるということは、そこに理想と現実のギャップが生まれているということです。当然、そのギャップは埋めてしまいたいのですがどうも埋まりそうもないと感じたときに、私たちの思考回路は「過去」を旅することになります。

 

つまり、今回を同じ状況になった、あるいは同じ感情が抱いた過去の出来事を思い起こしてしまうのです。その結果、過去の失敗や悔しかった感情を今起こっているかのように思い、そこから不安に満ちた未来予想図を頭の中で作り上げます。

 

こうしてネガティブな思考が頭の中で繰り返されますと、気分が下降し現在の状況を正しく判断することができなくなります。そして「自分はどうしていつも同じ反応ばかりするのだろう?」とか「私はなぜこんな目に遭うのだろう?」といったことが自己批判を繰り返すことになります。

 

これを心理学では反芻(はんすう)と言います。

 

一般に反芻はネガティブな思考について発生することが多く、これがうつの発生や再発の原因の一つになっています。

 

したがいまして、望ましくない状況や感情が起きた際に起動する「することモード」は、心理学でいう反芻を招き、結果的に問題を解決することも心を落ち着かせることもできない困った状態を起こしてしまいます。

 

 

「あることモード」をうまく活用する

 

「あることモード」は、今この瞬間に注意を向けるモードです。このモードでは頭の中に浮かんでくる思考や感情はただ単に気づきの対象となり、それを変えるのではなく、あるがままに見て、それを受け入れます

 

ネガティブな気分や思考が起こり、そこから過去の嫌な記憶が想起されたとしても、「することモード」における批判的な思考の代わりに、「あることモード」における気づきと注意を利用するわけです。

 

ここで、今の起こっていることのゴールや目標を決めてしまっては、理想と現実を埋めるための「することモード」が再び起動してしまいますので、ゴールや目標ではなく今現在の情報収集や分析に注意を向けることが大切です。

 

 

2つのモードを使い分けるためには?

 

ここまで見てきましたように、「することモード」と「あることモード」を日常生活においてうまく使い分けるが大切です。

 

じつは、私たちは起きているほとんど時間は「することモード」になっています。

 

それを仕事や学業における技術的な解決には「することモード」、「することモード」で解決できない事柄については「あることモード」で現状分析を行い実際に選択できるものは何かに気づいて、それを意識しながら行動するといったように、柔軟な切り替えができるようになることが理想です。

 

とは言いましても、実際にこの2つのモードを使いこなせるようになるのは時間もかかりますし、それなりに練習しなければなりません。

 

ジョン・カバットジンが開発したマインドフルネスストレス低減法(MBSR)は、「あることモード」を身につけるためのプログラムでもあります。

 

そして、今この瞬間に気づくために用いられるツールが、瞑想ということになります。

 

 

自分の思考は絶対ではない

 

私たちの頭の中を駆け巡る思考というものは、解釈や価値判断を含みますが、それ自体が事実というわけではありません

 

人は誰でも自分の目線でしか解釈や価値判断ができませんし、他人のことは分かっているようで本当はほとんど分かっていません。

 

つまり、自分の思考は絶対的正しさを持つものではなく、単に思考にすぎず、「心の中で駆け巡る経験」として客観的に観察して、それがずっと留まるのではなく自然に通り過ぎていく一過性の精神的出来事として捉えることがマインドフルネスな態度ということができるでしょう。

 

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