マインドフルネス ~ 職業性ストレス への対処法
<前回の記事>
職場のストレスとは?
現代人にとってストレスの問題は深刻化の一途を辿っています。時間に追い立てられる、人間関係に苦しめられるなどストレスの要因は多岐にわたりますが、その根源の一つは「職場」あるいは「仕事」だといえるでしょう。
たいていの人は働いて収入を得ないと食べていけませんので、何らかの組織に属さざるを得ません。属した組織がその人にとって良い環境であればいいのですが、そうではない場合はそれが大きなストレス要因となります。
昨今、ブラック企業の問題がクローズアップされていますが、このことは単に長時間労働の問題だけではなく、この存在が私たちを身体的、精神的、社会的に不完全な状態に追い込むものであるという観点からも論じられるべきではないかと思います。
職業性ストレス (work-related stress : WRS)とは?
ブラック企業は、そこに働く人々に対して過大なストレスを与える存在だということは間違いないのですが、それではそれ以外の企業は問題はないのかと言えばそうではないところがストレスの問題の根深いところでもあります。
つまり、私たちはまともな企業組織に属したとしても何らかの原因でストレスを抱える可能性が常にあるということです。これは 職業性ストレスの問題として過去からメンタルヘルス対策として重要視されてきました。
職業性ストレス とは、労働環境におけるさまざまな要求が、従業員の対応能力を超えた時に起こりうる身体的な反応です。もちろん、ストレス反応は病気ではありませんが、外部からのストレッサー(ストレス要因)を一定期間にわたり受け続けますと、心身の健康にさまざまな障害が生じることがあります。
私たちは適度の緊張状態(これもストレスです)に置かれることによって、業績を上げたり、目標が達成された時に満足感を得ることができますが、これが大きくなりすぎて自分の対処能力を超えてしまいますとストレスによる心身障害になる危険性が高まります。
これは、労働者にとっても、その組織にとっても好ましくないことは言うまでもありません。
労働負荷(量的負荷と質的負荷)について
職業性ストレスを考える上で大切なことは労働負荷の問題なのですが、これは量的負荷と質的負荷に分けられます。
まず、量的負荷とは慢性的な業務過多のことであり、これが長時間労働の常態化を引き起こします。
そして質的負荷については、いくつかのモデルが提唱されていますが、ここではDCSモデルとERIモデルをご紹介します。
DCSモデル(Demand-control-support Model)
このモデルでは、下記の①~③が重なった状態が、心身の健康障害リスクが一番高くなるとしています。
- 「仕事の要求度」が高い(業務の過重性が強い)
- 「仕事上の裁量権や自由度」が低い
- 職場における支援度(上司や同僚のサポート)が少ない
(具体例)
- 自動車組立てラインで働いているAさんは、自分が働くラインのペースに口出しできる権限もなく、単調かつ反復的な業務をただ繰り返しています。
- Bさんの会社は、業績悪化による人員削減を行ない、さらに他社との競争に勝つための業務効率化をトップダウンで実施していますが、Bさんは業務の負担増などに対してそれをコントロールする権限がありません。
- Cさんの会社では、経営者が常態化した長時間労働への危機感がないどころか、逆に長時間労働、休日勤務を会社への忠誠心の証である考えています。Cさんの業務は本人の対処能力の範囲内でしたが、業務量は過大であり上司のサポートもなく、同僚も同じような状況であり他の同僚を支援する余裕はありません。
ERI モデル(Effort/Reward Imbalance Model: 努力‐報酬不均衡モデル)
仕事の遂行のために行われるさまざまな努力(Effort)に対して、その結果として得られる報酬(Reward)が少ないと感じられた場合に、より大きなストレス反応が発生するというモデルです。
努力には、業務の負荷、業務の中断、責任性、時間外労働、身体的負荷の増大など
報酬には、経済的な報酬(金銭)、心理的報酬(尊重)、仕事の安定性や昇進などがあります。
ERIモデルでは、自分の努力と報酬が釣り合わない「高努力/低報酬状態」を最もストレスの高い常態だとしています。例えば、業務量は多いのに安定しない仕事、昇進の見通しや適正な報酬が与えられるわけでもないのに高レベルの業績を求められる仕事、自分の努力を正当に評価されない状況などが挙げられます。
この2つのモデルから示唆されることは、過重労働を減らすのみならず、裁量度や自由度を高めたり、報酬にへの対応をきちんと対応するなどの方策を考えることも、働く人々のストレス対策として有効だということです。
職業性ストレス へのマインドフルネスの活用
これまで仕事によって引き起こされるストレス(職業性ストレス)について詳しく見てきましたが、それでは実際に職業性ストレスに立ち向かうためにどうすれば良いのでしょうか?
これをマインドフルネスの観点から考えますと、まず自分の仕事についてお金を稼ぐ以上の価値をどのくらい見出すかということが大切です。
私たちは絶海の孤島で一人で暮らしているわけではありませんので、必ず誰かと繋がっています。
今の仕事をすることで、誰かの役に立っているとか、社会に貢献しているとか、何かしらの意義を感じることができるか否かが一つの分かれ目になりますが、その判断をする上で、自分の仕事についてどの程度意識できているかが重要となります。
職業性ストレスは、誰にでも起こり得るものです。たとえあなたが会社を経営して、社内において大きな裁量権や自由を持っていたとしても、仕事のすべてを自身でコントロールすることはできません。
競合他社の台頭や自然が引き起こす災害などの「変化」について、それを完璧にコントロールできるわけがありません。
つまり、私たちはどのような立場にあろうと、しょせんは一人の人間ですので、外の環境を変えるといってもそこに限界があるのは当然のことです。
したがいまして、仕事上のストレスは誰にでも必ず起こりますので、ストレスをなくす・消すことに腐心するのではなく、ストレスをできるだけ少なくするとかコントロールするために何ができるかを考えることが重要となります。
同じ環境に居ても、ストレスから受ける影響の度合いは人によって違いますし、特にそれが精神的なストレス場合は、「ものごとをどう解釈するか」、つまり、その人の態度や姿勢が関係してきます。ものごとの変化を受け入れるか、それとも何かあるたびに抵抗したり悩んだりするかどうかで、ストレスの度合いは変わってきます。
マインドフルネスの考え方は、今この瞬間を感じることが重要ですが、それはものごとの変化を客観的に見ることができるかということでもあります。
客観的な傍観者的な目線で自分を観察するということは、変化している出来事に刹那的に反応することや感情的に対応することを抑制します。
このような態度は一朝一夕で身に付くことはありませんし、すべての事態において有効に機能するものでもありません。
自分の方にクルマが突っ込んできている時に、轢かれそうになっている自分をゆっくり観察している場合ではありません。
しかし、職場でのストレス(時間的ストレス、人間関係ストレス)については、とっさの判断は失敗することのほうが多いかもしれません。
まずは、自分に湧き上がる感情を冷静に分析して、続いて外部の環境(上司や同僚との関係や家族などの支援者)を分析した上で、自分の最善の行動は何かを判断する時間は十分にあると思います。
その時に有効となるのが、マインドフルネスの態度です。
置かれた状況を冷静に分析すること、一時的な感情で行動しないこと、自分のとって大切なものを見つけること。
マインドフルネスの態度は、複雑な現代社会を生きる私たちにとって非常に有効なものとなるでしょう。
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