ブラック企業 に退場してもらうための2つの案

退場

 

前回の記事ではブラック企業のなかでも悪意のある経営者(ブラック経営者)の特徴について書きましたが、今回はブラック経営者を少しでも減らすためにどうすれば良いのかについて書いています。
ただ、法改正とか権利の考え方などに触れていますので、実現する可能性はゼロに等しい内容になっていますが、ブレインストーミングだと思ってご覧いただければ幸いです。

 

ブラック企業 を減らすための方策

現在の労働基準法の罰則規定は最高でも1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(第117条)であり、適用されるのは強制労働を禁止した同法第5条違反のみです。詳細は同法第117条以下をご参照いただくとして、違反の多くは30万円以下の罰金となっています。

同法違反で懲役刑を下された人がいるのかどうか分かりませんが、そもそも送検されること自体が珍しいですし、ほとんどの場合は行政指導(是正勧告)で終結するのが現状です。

今回、電通で起こった過労自殺の問題では、法人としての電通と幹部1人が書類送検されましたが、それはあくまでも「時間外労働の上限を超えて社員を働かせていた疑い」であり、社員を自殺させたり精神疾患を発症するくらいまで追い込んだことが直接的な理由ではありません。

人を精神的に追い込んで病気にさせたり死に追い込んだりする行為は、加害者が直接手を下さないこともありますが、追い込まれた側に「弱い人」などといういわれのないレッテルを貼る人が未だにいることもあって、刑法犯のようにきっちり処罰されることが少ないのが現状です。

しかし、これだけ過労による健康被害や自殺の問題が社会問題になっている現状において、この問題を現行のまま放置しては、ますます事態は深刻化するだけです。

したがいまして、ブラック経営者を駆逐してブラック企業を減らす新たな枠組みが必要になります。私は現行の労働基準法の枠組みで対応することはもはや不可能だと思っています。

以下に実現可能性は低いと思いますが、新たな枠組みに関する案を2つほど書きます。

案1:「認識ある過失」を流用した特別法の制定

「認識ある過失」とは、自分の行なったことが違法な状態になることを分かっていて、それが発生することはないと信じていたが、結果的に違法状態が起こってしまったことをいいます。

例えば、自転車に乗って坂の上からノーブレーキで下りてきた時、路地から人が飛び出してまともにぶつかれば人を死なせるかもしれないが、今まで人が飛び出してきたことはないのでそんなことは起こらないだろうと考えていたら、人が飛び出してきて事故を起こした場合がこれにあたります。

そこで、長時間労働やハラスメントの問題についても同様に、「長時間働かせたりハラスメントをすれば病気になったり自殺するかもしれないが、まさかそんなことは起こらないと思っていたら起こってしまった」という考え方で、認識ある過失による罰則を規定した特別法を制定するという案です。

ここで加害者が「認識していたか」という問題が起こりますが、それはあらかじめ「認識させていればいい」わけで、例えば使用者に対して現在の労災認定基準を周知徹底すれば事足ります。

<参考:厚生労働HP>
脳・心臓疾患の労災認定 -「過労死」と労災保険-

職業病リスト

 

2001年6月の刑法改正で危険運転致死傷罪が施行された背景には、飲酒運転による悲惨な事故が多発したことや厳罰化の意見が多数出されたことがありました(現在は自動車運転死傷行為処罰法として独立した法律になっています)。

飲酒運転や危険運転に関する処罰はどんどん厳しくなっているのに、長時間労働やハラスメントによる健康被害や自殺の問題については掛け声だけでほとんど放置されたままです。労働行政分野においても、きちんと責任の所在を明らかにし、加害者を罰するような形態に改めないと政府に対する不信感は募るばかりなのは私ひとりでしょうか。

制定する特別法には、使用者や管理監督者そして部下を持つ立場のある者に対して、長時間労働やハラスメントによる健康被害や自殺についての研修の実施(既存の厚労省HPにあるパンフレットあるいは新たに冊子を作成してもいい)、取引先に無理な納期を強要しないといった一連の教育を行うことによって「認識した」こととします。そして労働者に対しても同様の教育を実施することと、職場の入退館時間の一覧をいつでも閲覧・印刷(またはコピー)できる状態にすることも自分の健康は自分で守るという意識を持ってもらうために必要になるでしょう。

それでも「知らなかった」などと言い逃れをするほどレベルが低いのであれば、いっそのこと自動車免許制のように会社を経営するのも免許がないとできないようにするしかありません。

「過労死」はワークライフバランスを軽視する我が国特有の現象です。外国に類似事例を求めてもしかたがありませんので、不名誉なことですがガラパゴス的法律を制定するしか解決できないのかもしれません。

 

案2:「公民権停止」のしくみを流用する

我が国でいう公民権とは、一般に選挙権や被選挙権を指しています。公職選挙法には公民権停止規定(第11条)があって、これが適用されますと選挙に立候補や投票ができなくなります。

これは、公職の地位に不適格な者をその地位に就かせないということです。

会社を設立したり経営する自由は誰にでも保障されていますが、金儲けがうまくても従業員を消耗品としか思っていないとか健康状態に気配りできない人は、人を雇う経営者としては不適格(資質が満たされていない)ということです。

そこで、公民権と同様に、仮に「経営ならびに管理監督権(名称は何でもいい)」という概念を作って、それを労働基準法に追加するか新たに特別法を制定し、これの停止規定を設けます。この権利は使用者、管理監督者、部下を持つ立場の者が持っているとみなして、停止規定に抵触したら一定期間この権利を停止します。

停止規定は上記の労災認定基準を使うか新たに作ります。

管理監督者や部下をもつ立場の人は、部下のいない社員に降格になります。問題は使用者ですが、会社を経営する権利を停止されますので、会社のすべての経営事項に関与できなくなります。自社株主の場合は議決権も停止されます。

同族企業の場合は、親族が経営を引き継げば裏で繋がって実効性が損なわれる可能性もありますが、それは別の規定を定めればいいわけです。例えば、経営ならびに管理監督権(仮)を停止させた者と通じ合って経営に参画させた者も権利を停止します。

それでは中小零細企業は潰れてしまうと思われる方もおられると思いますが、私は潰れればいいと思っています。

クルマで人をひき殺したり、刃物で人を刺した人が、「私が捕まったら会社が潰れますので捕まえないでください」と言っても問答無用で逮捕されるのと同じで、その結果会社が潰れてもそれは自業自得なのです。

 

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アイデアは質より量が第一歩

冒頭でブレインストーミングだと思ってお読みくださいと書きましたが、これの4原則は判断・結論を出さない、粗野な考えを歓迎する、アイデアの質より量を優先する、アイデアを統合し改善するというものです。

今回の記事はかなり乱暴で粗野なのは百も承知なのですが、質より量ということで一人一人がさまざまなアイデアを出すことによって、人を死に追い込んだり病気にさせるようなブラック企業が一つでも減っていくことを願って書きました。

ブラック企業そのものをなくしていくためには、過重労働だけではなく他にもさまざまな対策を行う必要がありますが、過重労働によって病気になったり自ら命を絶たざるを得ない状況は一刻も早く根絶させなければならない最優先の問題です。

わたしたち一人一人が自らの問題として考えていくことが大切です。