『還暦』は老人にあらず
平均寿命と定年年齢のアンバランス
厚生労働省が平成27年7月30日に公表した『平成26年簡易生命表』の平均寿命の年次推移を見ますと、昭和40年(1965年)は男性が67.74歳、女性が72.92歳、 平成26年(2014年)は男性は80.50歳、女性は86.83歳となっています。
ちなみに、昭和40年当時は定年退職年齢は平均55歳でした。ひどいところでは女性だけ30歳で定年となる企業もありましたが。
昭和40年代は55歳で定年を迎え、10年と少し年金生活をして他界するというのが平均的であったのに対し、平成20年代は60歳で定年を迎える人、または雇用延長で65歳で定年を迎え、15年~20年を再就職あるいは年金生活でという人が平均的です。
現在の高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用制度では、定年を定める場合には、60歳を下回ることができません。また、65歳未満の定年を定めている事業主に対しては、
- 定年の引上げ
- 継続雇用制度の導入
- 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を導入する義務があります(高年齢者雇用安定法第9条)。
しかし、この法律は、上記のいずれかの措置を導入することが義務であり、個々の労働者を雇用する義務ではありませんし、定年引上げの義務化でもありません。
ということは、俗にいうブラック企業がやりそうなのは、継続雇用制度を導入した上で、労働者を60歳前後で次々にリストラすることです。
就業規則に継続雇用制度を定めてさえおけば、この法律の要求基準はクリアしますので、何かと理由をつけて自主退職に追い込めばいいわけです。
そんな会社が存在しますし、私は具体的な企業名も知っていますが、やり口が巧妙なのと行政がこの分野にまだまだ消極的対応しかしないので公表しても返り討ちになるだけなので何もできません(余談ですが、ブラック企業は内容証明を連発したり、損害賠償請求をちらつかせたりして、労働者をいかに委縮させるかという戦術に長けています)。
若年者雇用と高年齢者雇用の安定が急務
平均寿命は延びましたが、定年年齢は旧態依然のまま放置されていますので、現代は60歳くらいで会社を辞めて死ぬまでの20年以上、極めて不安定な生活を強いられる方が数多くいらっしゃいます。
これは人生の4分の1の期間に相当しますので、昔のように『余生』などという時間軸で語られるような問題ではありません。
日本では60歳(数え61歳)になると『還暦』ということで、お祝いとして赤色の頭巾やちゃんちゃんこなどを贈る習慣があります。
私が子どもの頃は、赤い頭巾にちゃんちゃんこと来た人を見ると『老人』だなと感じていましたが、現代では60歳でも健康で若々しい方が多いです。
これから人口減少が加速する我が国において、若年者はもとより高年齢者の雇用安定の確保は、国家の命運を左右する大切なことです。
行政もこのようなザル法を改正するとともにさらに強く明確な意思をもって政策を立ててほしいですし、企業側においても年齢に対する思い込みを排して、適材適所の人事戦略を再構築することが急務です。