銀河英雄伝説リメイク版 ~独裁者が生まれる条件
銀河英雄伝説リメイク版が放映中
銀河英雄伝説(銀英伝)が今春からリメイク版が放映されています。テレビだけでなくネット配信も行っていて、私はアマゾンプライムから視聴しました。
この作品は田中芳樹原作の1982年に刊行されたSF小説で、その後アニメや漫画、舞台、ゲーム等にもなり、小説も累計1500万部超の大ベストセラーとなりました。
私はこの作品の熱狂的なファンというわけではありませんので、今回のリメイク版について旧作と比べてどうこう言うつもりもなく、ただ楽しんで拝見しています。
この作品には多数の登場人物がいますが、主人公は2人です。銀河帝国側はラインハルト・フォン・ローエングラム、自由惑星連盟側はヤン・ウェンリー。銀河帝国と自由惑星同盟は150年にわたって戦争しているという設定です。
ラインハルトは帝国の首都星オーディンに下級貴族の子として生まれ、姉のアンネローゼに育てられました。彼が10歳の時、アンネローゼが時の皇帝の後宮に召されたことで、皇帝と王朝に激しい憎悪を抱きます。そして姉を取り戻すために王朝打倒を画策し、職業軍人を志していきます。
一方、ヤンは星間交易船の船長であった父ヤン・タイロンと共に幼少期の多くの時間を交易船の中で過ごし、無類の歴史書好きからか歴史研究家の道を望みましたが、無料で歴史を学べるという理由から、同盟軍士官学校戦史研究科に入学しました。
どちらも職業軍人を望んだわけではありませんでしたが、運命のいたずらなのか共に軍人となり、指揮官として数々の戦闘を交える関係となりました。
独裁者はなぜ生まれるのか ~ヤン・ウェンリーの父上の意見
今回のリメイク版は、『銀河英雄伝説 Die Neue These(ぎんがえいゆうでんせつ ディ・ノイエ・テーゼ)』という名称で、テレビアニメシリーズとしてファーストシーズン『銀河英雄伝説 Die Neue These 邂逅(かいこう)』が2018年4月~6月放送、翌2019年より、セカンドシーズン『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱(せいらん)』全国の映画館で上映される予定だそうです。
現在テレビ放映されているファーストシーズンのエピソード4「不敗の魔術師」で、ヤンが興味深いことを言っていました。個人的にとても印象に残りましたので紹介したいと思います。
場面は、町の図書館で読書していた士官候補生ヤン・ウェンリーが屋上でバイオリンの練習をしていたジェシカ・エドワーズと初めて出会うところから始まります。初対面なのにジェシカはヤンのことをかなり前から知っている様子で、ヤンの頭は「???」となります。そこに士官学校の仲間であるジャン・ロベールラップ(のちにジェシカと婚約する)が登場し、ジャンとジェシカは幼馴染だと分かって、ヤンの疑問は解決しました。「ジャンめ、俺のこといろいろ吹き込みやがって」といった感じでしょうか。
その後、3人はカフェに場所を移して歓談しますが、ジェシカはヤンに興味津々で何か面白い話をしてくれと頼みます。
ヤンは面白いかどうかは保証できないけどと前置きして、以下のことを話し始めました。
ヤン:子供の頃、どんな本にも帝国のルドルフは大悪党だと書いてあったけど、どうして皇帝にまでなれたのかって不思議でさ、父に聞いたことがある。
ジェシカ:お父様はなんて?
ヤン:民衆が楽をしたがるせいだと。
ジェシカ:楽をしたがる?
ヤン:自分たちの努力で問題を解決せず、どこからか超人なり聖者なりが現れて全部一人でしょい込んでくれるのを待っていたからだ。そこをルドルフに付け込まれた。いいか?覚えておくんだ、独裁者は出現させる側により多くの責任がある。積極的に支持しなくても黙って見ていれば同罪だ。
銀河英雄伝説 Die Neue These エピソード4 腐敗の魔術師より
ここで登場するルドルフとは、ゴールデンバウム朝銀河帝国初代皇帝であるルドルフ・フォン・ゴールデンバウムのことで、彼は西暦2801年に起こった地球の支配体制崩壊とシリウス政府瓦解後の混乱を収拾して成立した人類全体を包括する単一民主政府である『銀河連邦』でのし上がった人物です。
連邦は一応は立憲君主制だったものの人々の無気力化や宗教の崩壊によるモラルの低下とそれに伴う犯罪の増加、政治家の権力争いと衆愚化という、どこぞの国で聞いたような状況に陥っていました。そしてそれらの腐敗一掃を唱えたのがルドルフで、やがて彼は国家元首と首相を兼務し、宇宙歴310年(西暦だと3311年)に銀河帝国を建国し国民投票によって初代皇帝となりました。
ちなみに自由惑星連盟とは、銀河帝国の圧政に抵抗して建国された民主国家で銀河帝国からは国として認められておらず、叛乱軍扱いされています。この二つの勢力が150年にわたって戦争状態にあるわけです。
救世主を待っていてもムダ
ヤン・ウェンリーの父上が語る独裁者が生まれる原因について、私が感心した本当の理由は『ルドルフ』、『独裁者』というところを他の言葉に置き換えれば、今の地上の世界の状況をよく表しているなと感じたからです。
人は誰でも楽をしたいと考えている生き物です。わざわざ苦労の道を何の見返りもなく進む奇特な人はごく少数でしょう。昨今のように格差が広がり、いわゆる取り残された人たちから見れば今の時代はどこからか超人や聖人が現れて何とかしてくれないと困ると思っているかもしれません。
しかし、残念なことに『救世主』は現れません。
自分で行動しなければ何も変わらない時代になっています。
「そんなこと言っても、どうせ何も変わりはしないさ」
そのように諦めているのか達観しているのかは知りませんが、私は政治を変えろと言っているのではありません。私が言いたいのは、自分自身の人生を変えるということです。
今の時代は、他者に自分の人生を変えさせられている人が多数います。自分では選んだつもりでも実は選ばされていたということもしばしばです。
そんなこと言われても、どういう意味なのか分からないという方もおられるとは思いますが、言えることは一つです。
どういう意味なのか死ぬ前に分かる人と、死んでも分からない人にくっきりと2分され、誠に残念ながら、後者が大多数ということです。
<注>アマゾンプライムで配信される作品は、時期により無料になったり有料になったり配信そのものがなくなったりしますのでご注意ください。